2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント対策が全ての事業主の法的な義務になりました。労働者を1人でも雇用していれば対象で、企業規模による猶予期間は設けられていません。
一方で、東京都をはじめとする自治体は、それ以前から独自の防止条例を施行しています。国の法律と自治体の条例は、目的は重なるものの性質がまったく異なります。この記事では、両者の違いを整理したうえで、事業者が実際に何をどこまで準備すればよいのかを、一次情報に基づいて具体的に解説します。
2026年10月1日に義務化されたのは国の法律である
まず、ここを取り違えている事業者が非常に多いため、最初に整理します。2026年10月1日に義務化されたのは、東京都の条例ではなく、国の法律です。
根拠となるのは、2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)です。施行期日は令和8年政令第17号によって2026年10月1日と定められ、同日から、カスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置を講じることが、事業主の義務となりました。措置の具体的な内容は、2026年2月26日に告示された指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に示されています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年6月4日 | 改正労働施策総合推進法が参議院本会議で可決、成立 |
| 2025年6月11日 | 公布(令和7年法律第63号)。施行は公布から1年6か月以内の政令で定める日とされた |
| 2026年2月26日 | カスタマーハラスメント防止指針を告示(令和8年厚生労働省告示第51号)。同時に、求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針も告示された |
| 2026年10月1日 | 施行。全ての事業主に措置義務が発生 |
対象は、労働者を1人でも雇用する全ての事業主
パワーハラスメント防止措置が義務化された際には、中小企業に約2年間の猶予期間が設けられました。しかし今回のカスタマーハラスメント対策については、中小企業向けの経過措置は設けられていません。株式会社、合同会社、医療法人、社会福祉法人、個人事業主といった法人形態を問わず、また業種も問わず、労働者を1人でも雇用していれば、2026年10月1日から対応が必須です。
保護の対象となる労働者には、正社員だけでなく、パートタイム労働者、アルバイト、契約社員、派遣労働者が含まれます。自社の労働者が取引先の労働者に対してカスタマーハラスメントを行った場合、その取引先の事業主から事実確認などの協力を求められた際は、これに応じるよう努めなければならないという努力義務も定められました。下請事業者や協力会社との関係が深い業種ほど、この点の影響が大きくなります。
カスハラの法的な定義は3つの要素で決まる
改正法におけるカスタマーハラスメントとは、職場において行われる顧客等の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、当該労働者の就業環境が害されることをいいます。この3つの要素を全て満たすものが該当し、ひとつでも欠ける場合は該当しません。電話、メール、SNSなどインターネット上で行われるものも含まれます。
顧客等による言動であること
顧客、取引の相手方、駅や空港、病院、学校、福祉施設、公共施設などの利用者、その他その事業主の事業に関係を有する者が対象です。今後、商品の購入やサービスの利用をする可能性がある者も含まれます。
社会通念上許容される範囲を超えていること
要求の内容そのものが不相当である場合と、要求を実現するための手段や態様が不相当である場合の、2つの軸で判断します。内容が正当であっても、手段が著しく不相当であれば該当し得ます。
就業環境が害されること
労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、能力の発揮に重大な支障が生じる状態を指します。判断にあたっては、平均的な労働者の感じ方を基準としつつ、その労働者が置かれた状況も考慮します。
該当し得る行為の具体例
指針では、該当し得る言動を、内容が不相当なものと、手段や態様が不相当なものの2系統に整理しています。
要求そのものに無理がある類型
そもそも要求に理由がない、または商品やサービスと全く関係のない要求。契約などにより想定しているサービスを著しく超える要求。対応が著しく困難、または対応が不可能な要求。不当な損害賠償の要求。これらが代表的な例として示されています。
伝え方や態様に問題がある類型
暴行や傷害といった身体的な攻撃。脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要などの精神的な攻撃。威圧的な言動。継続的で執拗な言動。不退去、居座り、監禁といった拘束的な言動。要求内容が正当であっても、これらに該当すれば対象となります。
正当なご意見やクレームは対象外です
商品の不具合やサービスの不備に対する指摘、改善の申し入れ、説明を求める行為は、カスタマーハラスメントではありません。むしろ事業者が真摯に受け止めるべき情報です。対策を講じる際には、消費者の正当な権利を不当に制限しないよう留意する必要があります。また、障害者差別解消法が定める、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供義務にも配慮が求められます。障害や疾病、言語の違いによって意思疎通が難しい場面を、ハラスメントとして扱うことがないよう、現場の判断基準を丁寧に設計してください。
事業主が必ず講じなければならない10の措置
指針は、事業主が講ずべき措置を5つの分野に分け、合計10項目を必須として定めています。努力目標ではなく、義務です。自社の現状と1項目ずつ突き合わせてください。
| 分野 | 番号 | 講ずべき措置 |
|---|---|---|
| 方針の明確化および周知、啓発 | 1 | カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知、啓発する |
| 2 | カスタマーハラスメントの内容、およびあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する | |
| 相談体制の整備 | 3 | 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する |
| 4 | 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする | |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 5 | 事実関係を迅速かつ正確に確認する |
| 6 | 被害者に対する配慮のための措置を行う | |
| 7 | 再発防止に向けた措置を講ずる | |
| 抑止のための措置 | 8 | 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備する |
| そのほか併せて講ずべき措置 | 9 | 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する |
| 10 | 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知、啓発する |
出典 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます」を基に、合同会社センターライトが整理しました。
2番の対処の内容については、指針が具体例を挙げています。労働者から管理監督者等に直ちに報告させ、その場の対応方針について指示を仰ぐこと。可能な限り労働者を1人で対応させないこと。犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること。本社や本部へ情報共有を行い指示を仰ぐこと。これらを事前にルール化し、現場の誰もが同じ判断で動ける状態にしておくことが求められます。
8番の抑止のための措置では、警察への通報、警告文の送付、商品販売やサービス提供の拒否、施設や店舗への出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てといった対処が想定されています。ただし、各業法によってサービス提供の義務が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることに留意し、適切に判断する必要があります。
措置を怠った場合にどうなるのか
結論から申し上げると、措置義務に違反したこと自体に対する直接の刑事罰はありません。ただし、罰則がないことと、放置してよいことは全く別の話です。
行政指導の対象となる
厚生労働大臣、実務上は都道府県労働局長が、事業主に対して助言、指導、勧告を行うことができます。パワーハラスメント防止措置と同じ法構造です。
勧告に従わない場合は企業名が公表され得る
勧告を受けたにもかかわらず従わない場合、その旨を公表することができるとされています。採用難が深刻化している現在、この公表が事業に与える打撃は罰金よりも重いと考えるべきです。
報告徴収への不対応には過料がある
行政から報告を求められたにもかかわらず報告をしない場合、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となり得ます。
民事上の安全配慮義務違反のリスクが高まる
実務上、最も重いのがこの点です。措置義務が法律で明文化された以上、何も手を打たずに従業員が被害を受けた場合、事業者が安全配慮義務を果たしていなかったと評価される可能性が格段に高まります。損害賠償請求の場面で、指針の10項目は事実上のチェックリストとして機能します。
「うちは小さいから見逃される」という判断は成り立ちません
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した労働者の割合は10.8パーセントでした。パワーハラスメントの19.3パーセントに次ぐ水準です。規模が小さい事業者ほど、対応を担当者個人の力量に依存させてしまいがちで、結果として1件の事案が離職に直結します。人員に余裕がない組織ほど、仕組みで守る必要があります。
東京都の条例と国の法律は何が違うのか
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、2024年10月11日に公布され、2025年4月1日に施行されました。業種を限定せずにカスタマーハラスメントを禁止した全国初の条例です。国の法律より1年6か月早く動き出しており、この時期のずれが混乱の原因になっています。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
2025年4月1日施行。何人も、あらゆる場においてカスタマーハラスメントを行ってはならないと定め、行為そのものを社会的に禁止する構成をとっています。事業者には、必要な体制の整備、被害を受けた就業者への配慮、防止のための手引の作成などが求められますが、これは努力義務です。事業者や顧客等に対する勧告、命令、公表といった措置や罰則は規定されていません。
改正労働施策総合推進法
2026年10月1日施行。顧客等の行為そのものを禁止するのではなく、事業主に対して、雇用する労働者を守るための雇用管理上の措置を義務づける構成です。義務の相手は事業主であり、履行しない場合は行政指導や勧告、公表の対象となります。対象地域は全国で、労働者を1人でも雇用していれば適用されます。
整理すると、条例は行為者である顧客等に向けて行為を禁じ、社会全体の規範を示すものです。法律は事業主に向けて体制整備を命じるものです。向いている方向が異なるため、どちらか一方に対応すれば足りるという関係にはありません。東京都内で事業を行う事業者は、条例が示す規範を前提としつつ、法律が求める10の措置を履行する、という二層での対応になります。
なお、東京都は条例第11条に基づき、2024年12月19日にカスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)を策定し、2025年3月には各団体共通マニュアルを公開しています。自社で手引を作成する際の土台として、そのまま活用できます。
防止条例はここまで広がっている
東京都が先陣を切った後、条例の制定は急速に広がりました。2026年10月末時点で、カスタマーハラスメントの防止を目的とする条例を制定した都道府県は8に達しています。
条例を制定した都道府県
| 自治体 | 公布日 | 施行日 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 2024年10月11日 | 2025年4月1日 | 全国初のカスタマーハラスメント防止条例。何人も、あらゆる場において行ってはならないと規定。罰則なし |
| 北海道 | 2024年11月29日 | 2025年4月1日 | 議員提案により成立。人材の育成に関する規定を置く。罰則なし |
| 群馬県 | 2025年3月27日 | 2025年4月1日 | 顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意する旨を明記。罰則なし |
| 愛知県 | 2025年7月11日 | 2025年10月1日 | 指針と各団体共通マニュアルを策定。相談窓口を設置。罰則なし |
| 静岡県 | 2025年10月17日 | 2026年4月1日 | 県外で業務に従事する者も就業者に含める広い定義。罰則なし |
| 栃木県 | 2026年3月25日 | 2026年4月1日 | 基本指針を策定し、各主体の責務を明確化。罰則なし |
| 埼玉県 | 2025年12月23日 | 2026年7月1日 | 事業者団体の責務や表彰制度を規定。総合相談窓口を開設。罰則なし |
| 三重県 | 2026年10月16日可決 | 2027年4月1日 | 全国初の罰則付き。悪質性の高い行為を特定カスハラとして禁止し、知事の禁止命令に従わない場合は50万円以下の罰金などの対象 |
条例を制定した市区町村
| 自治体 | 施行日 | 特徴 |
|---|---|---|
| 三重県桑名市 | 2025年4月1日 | 全国初となる氏名公表の規定を置く。市長が事案を確認または認定し、警告を経ても改善が不十分な場合、対策委員会の意見を聴いたうえで行為者の氏名等を公表できる |
| 群馬県嬬恋村 | 2025年4月1日 | 村の責務を明記し、顧客、事業者、従業員の協力を基本理念に掲げる |
| 群馬県中之条町 | 2025年6月20日 | 顧客等の責務としてカスタマーハラスメントの禁止を規定 |
| 徳島県牟岐町 | 2025年10月1日 | 自治体職員に対する行為を対象とし、対策委員会の設置、事案の確認または認定、措置を規定 |
| 茨城県城里町 | 2025年12月10日 | 公布と同日に施行。町、顧客等、事業者、就業者の責務を規定 |
| 島根県美郷町 | 2026年2月1日 | 就業者に加えて町職員等も対象に含める |
| 静岡県長泉町 | 2026年4月1日 | 何人も、あらゆる場において行ってはならないと規定 |
| 岡山県岡山市 | 2026年4月1日 | 人格、尊厳または就業環境が害されるものを定義に含める |
出典 一般財団法人地方自治研究機構「カスタマーハラスメントに関する条例」、各自治体の公表資料、および報道を基に、合同会社センターライトが2026年10月末時点で整理しました。制定の動きは継続しているため、最新の状況は各自治体の公式情報をご確認ください。
三重県の罰則付き条例が持つ意味
2026年10月16日、三重県議会は全会一致で、全国初となる罰則付きのカスタマーハラスメント防止条例を可決しました。施行は2027年4月1日です。
この条例は、正当な理由がないのに長時間にわたって何度も謝罪や面会、金銭などを要求する行為、わいせつな言動といった悪質性の高い行為を特定カスハラとして禁止します。被害に遭った事業者の申し出を受けて、県は有識者による審査会を開いて調査し、映像や録音などの資料の提出を求めることができます。知事が行為者から意見を聴き取ったうえで禁止命令を出し、それに従わない場合は捜査機関へ告発され、50万円以下の罰金などの対象となります。
ここで事業者が読み取るべき示唆は2点です。ひとつは、条例が理念を示す段階から実効性を担保する段階へ移りつつあるということ。もうひとつは、その手続きが事業者からの申し出を起点としている点です。申し出の際には、映像や録音といった客観的な資料が求められます。つまり、日頃から事案を記録に残す体制を持たない事業者は、せっかく用意された制度を使えません。記録の整備は、法律の措置義務を満たすためだけでなく、条例の制度を活用するための前提条件でもあります。
対応レベルは3段階。自社に合う水準を選ぶ
措置義務といっても、どこまでやれば足りるのかが見えないという声を多くいただきます。実務の現場で現実的に選ばれている3つの水準を、想定期間、得られること、残るリスクで整理しました。
1MINIMUM
最小限の体制
法令が求める最低限を、社内の作業だけで満たす水準です。
- 基本方針を文書化し、全従業員へ周知する
- 既存のハラスメント相談窓口にカスタマーハラスメントを加える
- 発生時の対処手順を1枚のマニュアルにまとめる
2STANDARD
標準的な体制
措置義務の10項目を実質的に満たし、対外的にも説明できる水準です。
- レベル1の内容をすべて満たす
- 基本方針を自社サイトで公表する
- 記録様式と該当性の判断基準を整備する
- 年1回の研修を実施する
- 悪質事案の対処フローと、外部専門家の連携先を事前に確定する
3ADVANCED
万全の体制
悪質事案への法的対応と、条例に基づく申し出の双方に耐える水準です。
- レベル2の内容をすべて満たす
- 就業規則へ明記する
- 通話録音と記録システムを導入する
- 顧客接点ごとの個別マニュアルを用意する
- 半期ごとの研修と事案レビューを行う
- 顧問弁護士および社会保険労務士と常時連携する
3つの水準で何が変わるのかを、項目ごとに並べると次のとおりです。
| 整備する項目 | レベル1 最小限 |
レベル2 標準 |
レベル3 万全 |
|---|---|---|---|
| 基本方針の文書化と社内周知 | |||
| 相談窓口の設置と周知 | |||
| 発生時の対処手順のマニュアル化 | 顧客接点ごとに作成 | 顧客接点ごとに作成 | |
| 自社サイトでの方針公表 | |||
| 記録様式と判断基準の整備 | |||
| 従業員への研修 | 年1回 | 半期ごと | |
| 悪質事案の対処フロー | |||
| 就業規則への明記 | |||
| 通話録音と記録システム | |||
| 外部専門家との連携 | 連携先を事前に確定 | 常時連携 |
選び方の基準は明快です。不特定多数の顧客と直接接する接点があり、かつ従業員が1人で現場に立つ時間がある事業者は、レベル3を選んでください。対面の接点はあるものの基本は少人数の固定顧客である事業者は、レベル2で十分に機能します。顧客との接点がほぼメールや書面に限られ、従業員数も少ない事業者は、レベル1から始めて、事案が発生した段階でレベル2へ移行する判断が合理的です。
なお、どの水準を選んでも、方針の明確化、相談窓口の設置、記録を残す運用の3点は省略できません。ここが措置義務の核だからです。
今日から着手する5つの手順
施行日はすでに過ぎています。まだ着手していない場合は、次の順番で進めるのが最短です。前の手順が終わらないと次が形にならない順序で並べています。
現状を10項目で棚卸しする
この記事の表をそのままチェックリストとして使い、できている、一部できている、できていない、の3段階で評価します。多くの事業者は、相談窓口の存在自体はあるものの、カスタマーハラスメントが対象であることを従業員に周知できていません。
基本方針を文書化し、社内外へ示す
カスタマーハラスメントには毅然と対応し、従業員を保護するという意思を、経営者の言葉として明文化します。社内への周知が義務ですが、顧客等への周知も被害防止に効果的であると指針が明記しています。自社サイトでの公表は、最も費用がかからず効果の高い方法です。
- 定義、該当し得る行為、当社が講じる措置、相談先を1ページに収める
- 消費者の正当な権利を制限しない旨と、合理的配慮に努める旨を必ず併記する
対処手順を1枚にまとめ、現場に配布する
発生時に誰が何をするかを、判断を挟まずに実行できる粒度まで落とします。管理監督者への即時報告、1人で対応させない、警察への通報基準、記録の取り方。この4点を現場の全員が同じ理解で共有できていれば、実務の7割は守れます。
相談窓口と記録様式を整える
窓口はパワーハラスメントおよびセクシュアルハラスメントの相談窓口と一体で運用して構いません。重要なのは、どの入口から相談しても適切な対応につながることです。記録様式には、日時、場所、行為者の特定情報、具体的な言動、対応者、対応内容、その後の経過を残す欄を設けます。
周知と教育を実施し、記録に残す
方針と手順を配布しただけでは周知したことになりません。説明会の実施記録、配布物の控え、受講者名簿を残してください。行政から報告を求められた際に、措置を講じた事実を証明できるのは記録だけです。
ウェブサイト側で整えるべきこと
ここからは、ウェブ制作を本業とする立場からの実務的な指摘です。カスタマーハラスメント対策は社内制度の話だと捉えられがちですが、実際には自社サイトが果たす役割が大きく、しかも費用をほとんどかけずに効果を出せる領域です。
基本方針ページを独立した固定ページとして公開する
方針の公表先としてPDFを選ぶ事業者が多いのですが、おすすめしません。スマートフォンで開きにくく、検索エンジンにも生成AIにも内容が正確に伝わらないためです。固定ページとしてHTMLで公開すれば、顧客が事前に目を通す確率が上がり、それ自体が抑止として働きます。実際に当社でも、自社のカスタマーハラスメントに関する基本方針を固定ページとして公開しています。構成の参考にしていただければ幸いです。
問い合わせ導線に、方針と取り扱いを明示する
お問い合わせフォームの近くに基本方針へのリンクを置くだけで、送信前に一度立ち止まる効果が生まれます。あわせて、送信された内容をどう取り扱うのかも明示してください。当社が制作するサイトでは、ウェブショップを除き、送信内容はサイト管理者へのメールとして届くだけで、当サイトのデータベースには保存しませんという記載を必ず入れています。保存しない方針を明示することは、利用者の安心につながると同時に、情報漏えいのリスク面でも合理的です。
また、問い合わせページに個人のメールアドレスを直接記載する運用は避けてください。収集ロボットの標的となり、迷惑メールと詐欺メールの入口になります。フォーム経由に一本化したうえで、スパム対策を適切に施すのが現在の標準です。
記録に耐えるサイト運用へ切り替える
三重県の条例が示したとおり、これからは事業者が客観的な資料を提示できるかどうかが分かれ目になります。ウェブ経由の問い合わせについては、送信日時、送信元の情報、本文を欠落なく保全できる状態を整えておいてください。プラグインの不具合でメールが届かず、やり取りの経緯を再現できないという事故は、実際によく起きています。
方針ページの制作から、フォームの安全設計まで対応します
合同会社センターライトでは、カスタマーハラスメントに関する基本方針ページの制作、問い合わせフォームのスパム対策と到達性の改善、WordPressサイトのセキュリティ強化までを一貫してお引き受けしています。現在のサイトのどこに不足があるのか、まずは率直にお伝えするところから始めます。
お問い合わせはこちらよくあるご質問
従業員が数名の小さな会社でも対象になりますか
対象になります。改正労働施策総合推進法の措置義務は、労働者を1人でも雇用する全ての事業主に適用されます。パワーハラスメント防止措置の際にあった中小企業向けの猶予期間は、今回は設けられていません。法人形態や業種による適用除外もありません。
東京都の条例に対応していれば、国の法律の義務も果たしたことになりますか
なりません。東京都の条例は、顧客等の行為を禁止し、事業者には努力義務を課すものです。一方、改正労働施策総合推進法は、事業主に対して10項目の措置を義務として課しています。条例への対応は出発点にはなりますが、それだけでは法律上の措置義務を満たしたことにはなりません。
措置を講じなかった場合、罰金は科されますか
措置義務違反そのものに直接の刑事罰はありません。ただし、助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合は公表され得ます。また、行政から報告を求められて応じない場合や虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の対象となり得ます。実務上はそれ以上に、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われるリスクが重要です。
正当なクレームとカスタマーハラスメントの線引きはどう考えればよいですか
要求内容の妥当性と、要求を実現するための手段や態様の相当性という2つの軸で判断します。商品の不具合に対する指摘のように内容が正当であっても、長時間の拘束や人格を否定する暴言を伴えば該当し得ます。反対に、内容に理由がない要求であっても、穏当な伝え方であれば通常のお問い合わせとして対応します。判断基準をあらかじめ文書化し、現場任せにしないことが重要です。
相談窓口は新しく設置しなければなりませんか
既存のパワーハラスメントおよびセクシュアルハラスメントの相談窓口と一体的に運用して差し支えありません。求められているのは、窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することと、担当者が適切に対応できるようにすることです。小規模な事業者であれば、代表者自身を窓口と定めたうえで、外部の社会保険労務士や弁護士と連携する体制でも要件を満たせます。
自社の基本方針は、ウェブサイトで公開したほうがよいですか
公開を強くおすすめします。指針は、方針を労働者に周知することを義務としたうえで、顧客等への周知も被害の防止に効果的であると明記しています。ウェブサイトでの公開は費用がほとんどかからず、取引先や採用候補者に対する説明にもそのまま使えます。掲載の際は、消費者の正当な権利を制限するものではないことと、障害を理由とする不当な差別的取扱いを行わない旨を必ず併記してください。
自社の従業員が取引先にカスタマーハラスメントを行った場合はどうなりますか
その取引先の事業主から、事実確認などの措置の実施に関して協力を求められた場合、これに応じるよう努めなければならないとされています。努力義務ではありますが、応じなければ取引関係そのものに影響します。自社が加害側になる可能性も想定し、従業員への教育の対象に含めてください。
まとめ
2026年10月1日に義務化されたのは国の改正労働施策総合推進法であり、東京都の条例はその1年6か月前、2025年4月1日に施行された別の制度です。条例は顧客等の行為を禁じ、法律は事業主に体制整備を命じます。向いている方向が違うため、片方だけでは足りません。
義務の対象は、労働者を1人でも雇用する全ての事業主です。猶予期間はありません。指針が定める必須の措置は10項目で、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後対応、悪質事案の抑止、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止という5分野に整理されています。違反そのものに刑事罰はないものの、行政指導と公表、そして安全配慮義務違反という民事上のリスクが残ります。
条例の制定は8都道県に広がり、三重県では2027年4月1日に全国初の罰則付き条例が施行されます。その手続きが事業者からの申し出を起点とし、映像や録音といった客観的な資料を求めている点は見逃せません。守られる側に回るためには、日頃から記録を残す運用が前提になります。
最後に、最も費用対効果が高い一手を挙げます。基本方針を文書化し、自社サイトで公開することです。社内への周知という義務を果たしながら、顧客等への抑止として働き、採用と取引の場面で自社の姿勢を示す資料にもなります。着手が遅れている場合も、ここから始めれば流れを作れます。
参考にした一次情報
- 厚生労働省 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます カスタマーハラスメント対策の義務化https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf
- 厚生労働省 ハラスメント対策総合情報サイト あかるい職場応援団https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
- 東京都 TOKYOノーカスハラ支援ナビhttps://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/
- 一般財団法人地方自治研究機構 カスタマーハラスメントに関する条例https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/162_customer_harassment.htm
- 愛知県 あいちカスハラ防止対策ナビhttps://no-customerharassment.pref.aichi.jp/
- 静岡県 静岡県カスタマーハラスメント防止条例https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/shuroshien/rodoseisaku/1078012.html
- 栃木県 カスタマーハラスメント防止対策https://www.pref.tochigi.lg.jp/f06/work/fukushi/customerharassment.html
本記事は2026年10月1日に公開し、2026年10月30日時点の情報に基づいて更新しています。三重県の罰則付き条例に関する記述は、10月16日の可決を受けて追記したものです。制度は改正される場合がありますので、実際の対応にあたっては、所轄の都道府県労働局および各自治体の公式情報をご確認ください。個別の法的判断については、弁護士または社会保険労務士にご相談ください。
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